生理前や生理中に腰のあたりが痛くなることはありませんか?生理に関係して起こる腰痛や骨盤痛は女性ホルモンの変化が原因であることが多いですが、ときには子宮内膜症を患っている可能性もあります。この記事では、生理に関係して起こる腰痛や骨盤痛の原因を解説し、対処法を紹介します。
この記事の監修医師
産婦人科専門医 月花瑶子
北里大学医学部卒業。日本赤十字社医療センター、愛育病院での勤務を経て、現在は都内の不妊専門クリニックに勤務。産婦人科専門医の資格を持つ。臨床医として働きながら、生殖に関わるヘルスケアの知識を社会に広める啓蒙活動も行う。監修書籍「やさしく 正しい 妊活大事典」(プレジデント社)
生理中の腰痛の原因と対処法
生理痛の原因でもある「プロスタグランジン」
生理痛とあわせて腰が痛いという方は、プロスタグランジンの分泌が原因かもしれません。
生理が始まると下腹部が痛くなる「生理痛」は、経血を排泄するために子宮の収縮を促す働きをする「プロスタグランジン」が分泌されることが原因です。
そして、プロスタグランジンによって子宮が収縮する際には、下腹部だけでなく腰にも痛みを感じることがあります。
生理中の腰痛対策
(1)鎮痛剤の服用
このような腰痛への対処法として、生理痛の鎮痛剤(痛み止めの薬)を服用してみましょう。生理痛のときに服用する鎮痛剤は腰痛の原因になる「プロスタグランジン」の分泌をおさえる働きがあります。
鎮痛剤は痛みが小さいうちに服用した方が効果があるため、腰痛や生理痛を感じはじめたら、早めに服用するようにしてください。
(2)冷え対策
生理中は体が冷えないように気をつけ、血流を良くすることは大切です。
「プロスタグランジン」は子宮を収縮させる働きがある物質です。血流が悪いと、子宮が収縮する働きが低下するため、収縮の働きを促そうとプロスタグランジンの分泌量は増えます。
ですから、痛みの原因となるプロスタグランジンの分泌量を抑えるためにも、体を温めて血流を良くすることは大切です。
腰や下腹部を冷やさないように、椅子に座っているときはブランケットを腰に巻いたり、カイロを貼ったりすると良いかもしれません。また、じっとしていると血流は悪くなるため、ストレッチなどゆっくりで良いので体を動かして血流を良くしましょう。
もし、鎮痛剤を飲んだり冷え対策をしていても腰痛がひどい場合は「月経困難症」と考えられます。詳しくは後ほど「腰痛や骨盤痛がひどい場合は病院へ」で解説します。
生理前の腰痛の原因と対処法
腰痛はPMSの症状のひとつ
PMS(月経前症候群)とは、生理が始まる前の数日間(3〜10日間程度)に情緒不安定やイライラなどの精神的症状や、腹痛や頭痛、胸の張り、そして眠気などの身体的症状が現れることです。
そして、腰痛もPMSの症状の一つです。
生理前から生理が始まる頃にかけて腰痛があり、またそのほかの身体的症状や精神的な症状を感じる方は、PMSへの対策をとることで腰痛も対処できるかもしれません。
生理前の腰痛対策(PMS対策)
(1)栄養バランスの改善
カルシウムやマグネシウム、ビタミンB6の摂取はPMSの症状をやわらげることに効果があると言われています。
カルシウムは牛乳やチーズなど乳製品、マグネシウムは野菜であればほうれん草やモロヘイヤ、ごぼう、アボカドなどに含まれますし、ホタテやカツオ、エビなどの魚介類にも含まれます。
ビタミンB6はサンマやカツオ、マグロ、サバ、イワシなどの魚や牛レバーに多く含まれます。
一方で、過剰なカフェインやアルコール摂取、そして喫煙は良くないため控えるようにしましょう。
(2)ストレスの軽減
PMSになりやすい人の特徴として、神経質な性格や日常的にストレスを感じる環境に身を置いていることが挙げられます。
生理周期の中頃からは意識的に適度な運動をしてみたり、仕事を調整したりしてストレスを解消することはPMSに対処する方法の一つです。
(3)漢方薬
冷え対策やストレッチは、「すでにやってるけど……」という方が多いかもしれません。そんなときは、漢方薬も対処法の一つです。
漢方薬には生理前や生理中の症状に合わせていくつか種類があります。興味があれば、漢方薬局に相談をしてみると良いでしょう。
これらの対処法でも効果が感じられないときは、低用量ピルという選択肢もあります。詳しくは後ほど「腰痛や骨盤痛がひどい場合は病院へ」で解説します。
ひどい腰痛や骨盤痛は子宮内膜症の可能性も
子宮内膜症による腰痛や骨盤痛
子宮内膜症を患っていると、下腹部や腰、骨盤などに痛みがあらわれることがあります。この痛みは生理周期に合わせて変化し、特に生理前や生理中に悪化します。
子宮内膜症は主に卵巣や子宮などに発症し、のう胞(分泌物が袋状に貯まる病態のこと)を作ったり、その周囲の腸と癒着する原因になります。
特に、「ダグラス窩(か)」と呼ばれる子宮と直腸の間のくぼみに子宮内膜症が存在すると、生理前や生理が始まった際に腰痛があらわれます。
子宮内膜症が疑われる場合、まずは病院で診察してもらうことが大切です。詳しくは後ほど「腰痛や骨盤痛がひどい場合は病院へ」で解説します。
慢性的な骨盤痛は「骨盤内うっ血症候群」の可能性も
慢性的な骨盤痛を引き起こす
骨盤内うっ血症候群は、骨盤部の静脈が太くなって蛇行し、その部分に血液がたまることで引き起こされます。
特徴としては、一日中座ったままでいたり、立ったままでいたりするとその後に痛みがひどくなり、横になると痛みが和らぐ、またセックスをするとき、した後などに痛みがひどくなる、などが挙げられます。
このような骨盤痛は、この骨盤内うっ血症候群が原因となっていることが考えられます。骨盤内うっ血症候群が疑われる場合、まずは病院で診察してもらうことが大切です。
腰痛や骨盤痛がひどい場合は病院へ
腰痛や骨盤痛がひどい場合は婦人科へ
生理中の腰痛が過度にひどいのであれば「月経困難症」の可能性や、生理前であればPMS(月経困難症)、または子宮内膜症や骨盤内うっ血症候群が原因で痛みが引き起こされている可能性も考えられます。
なかなかセルフケアによる対処法でも効き目がないときは、婦人科で医師に相談することが大切です。
生理痛や生理前のPMSを解消する「低用量ピル」
腰痛や骨盤痛の原因が月経困難症やPMSだと考えられる場合は、低用量ピルの服用は対処法の一つです。
低用量ピルは、生理に関連する様々な症状を緩和することができます。ピルと聞くと「避妊薬」のイメージが強いかもしれませんが、実は月経困難症やPMS(月経前症候群)の症状緩和などの効果もあります。
もし、毎月のように生理前や生理中の腰痛で悩んでいるのであれば、婦人科でピル処方の相談をしてみると良いでしょう。
子宮内膜症・骨盤内うっ血症候群は早めの治療が大切
毎月のように腰痛や骨盤痛に悩み、また生理痛(下腹部の痛み)や排便痛、性交痛などがある場合は子宮内膜症の可能性があります。
子宮内膜症は珍しいものではなく、特に20代から30代の女性に多く見られます。いくつかの調査から、生理(月経)のある女性の数%~10%程度が子宮内膜症を患っていると推定されています(*2)。
子宮内膜症は腰痛や腹痛などの症状によって日常生活に支障がでるだけでなく、不妊の原因にもなります。妊娠を希望されている方は、子宮内膜症の疑いがあれば早めに医師に相談しましょう。
また、子宮内膜症ではなく骨盤内うっ血症候群の可能性もあります。このような疾患がないかどうか、痛みがひどい場合は病院で診てもらうことが大切です。
以上、生理前や生理中の腰痛・骨盤痛の原因と対処法を解説しました。ちょっとした腰痛であれば、冷え対策などのセルフケアで痛みを緩和することはできるかもしれません。
ただし、月経困難症やPMS、子宮内膜症や骨盤内うっ血症候群の場合は、診察を受けて適切な対処をすることが大切です。毎月のように腰痛や骨盤痛で悩むようであれば、一度お近くの婦人科に相談してみましょう。