生理前のイライラや情緒不安定、また腹痛や頭痛などの身体的な不調を感じるPMS(月経前症候群)。プライベートや仕事にも影響が出てしまい、悩む女性は多いのではないでしょうか。そんなPMSは、ピルの服用によって症状を抑えることができます。この記事では、なぜピルの服用によってPMSの症状を緩和できるのか、そして気になるピルの副作用について解説します。
この記事の監修医師
産婦人科専門医 月花瑶子
北里大学医学部卒業。日本赤十字社医療センター、愛育病院での勤務を経て、現在は都内の不妊専門クリニックに勤務。産婦人科専門医の資格を持つ。臨床医として働きながら、生殖に関わるヘルスケアの知識を社会に広める啓蒙活動も行う。監修書籍「やさしく 正しい 妊活大事典」(プレジデント社)
PMS(月経前症候群)とは
7〜8割の女性はPMSを感じている
PMS(月経前症候群)は、生理が始まる前の数日間(3〜10日間程度)に身体的または精神的な症状がでることです。PMSは珍しいことではなく、生理がある女性の7〜8割程度は何かしらの症状があるといいます。PMSの症状の特徴としては、生理が始まると症状がおさまることが挙げられます。
PMSは精神的にも身体的にも症状がある
PMSの症状としては、生理前になるとイライラしたり、悲しくなったり、ネガティブになって自己嫌悪感を感じたりと精神的な変化が挙げられます。また、腹痛やむくみ、倦怠感、眠気など身体的に症状が現れる方もいます。
PMSの原因
PMSの仕組みはまだ完全には解明されておらず、なぜこのような症状が起こるのかは、はっきりと分かっていません。しかし、原因としては「女性ホルモンの変化」ではないかと考えられています。
生理のある女性の場合は、生理周期の中頃(排卵期)に排卵が起こります。この排卵後に女性ホルモンの「卵胞ホルモン(エストロゲン)」と「黄体ホルモン(プロゲステロン)」のバランスが変化することで精神的、または身体的な症状が現れるのではないかということです(*1)。
PMSへの対処法として「ピル」という選択肢
PMSは軽度であればやり過ごすこともできますが、症状が重いと日常生活に支障をきたします。この記事を読んでいる方は、PMSへの対処法として「栄養バランスの取れた食事」や「ストレスを溜め込まないように」というアドバイスを何度も聞かされてきたのではないでしょうか。ただ、「そうは言っても……」というのが現実かと思います。
そんな方はピルの服用を考えてもよいかもしれません。PMSは、ピルによって症状を抑えることができます。まずは、ピルがどのような薬なのか説明します。
ピルは女性ホルモンを配合したもの
ピルは、女性ホルモンを配合した錠剤です。含まれているのは「卵胞ホルモン(エストロゲン)」と「黄体ホルモン(プロゲステロン)」の2種類です。先ほどのグラフ(上の図)にも出てきましたね。
「卵胞ホルモン(エストロゲン)」の含有量によって「高用量ピル」「中用量ピル」「低用量ピル」と種類が分かれます。
主流は副作用の少ない「低用量ピル」
高用量・中用量ピルは女性ホルモンが関連する病気や不妊治療、月経移動(月経のタイミングをピルの服用によって意図的にずらすこと)のために一時的に使用されることが多く、避妊や生理に関連した症状の治療(PMSや月経困難症)には低用量ピルが用いられます。高用量であるほど副作用が強く出てしまうため、現在では低用量ピルの処方が主流となっています。
ピルは排卵を止められる
ピルの服用効果としてよく聞かれるのは「避妊」ではないでしょうか。ピルは避妊にとても効果的で、正しく服用すれば避妊の成功率は99.7%にものぼります。
避妊の成功率が高い理由の一つは、ピルを服用すると排卵が起こらないからです。
ピルでPMSの症状を緩和できる理由
PMSの原因は排卵後に女性ホルモンのバランスが変化することだと考えられています。ですから、ピルによって排卵を止めてしまえばホルモンバランスの変化を抑えられ、PMSの症状をやわらげることが期待できるのです。
気になるピルの副作用
「ピルの服用」と聞くと副作用が気になる方がいるのではないでしょうか。以下では、ピルの服用による副作用やリスクについて説明します。
ピルの副作用
ピルを服用すると、以下のような副作用が現れることがあります。
・乳房の張り
・むくみ
・頭痛
・胃のむかつきや吐き気
これらの副作用はピルを服用しはじめた頃に感じることが多く、「マイナートラブル」と呼ばれるもので大きな心配はいりません。1〜2ヶ月も服用を続ければ症状は治まります。
なお「ピルを服用していると、将来的に妊娠できなくなったりしないかな?」と不安に思う方がいるかもしれませんが、心配はいりません。ピルを飲み続けたとしても、服用をやめれば通常通りに排卵が起こるようになり、妊娠できる状態に戻ります。
血栓症のリスク
ピルは血栓症の発症率を高めるリスクがあります。血栓症とは、血管の中で血が固まり、血管が詰まってしまう症状です。
ただし、発症することはごく稀なので、ピルを飲むほとんどの方にとっては問題になることはありませんし、医師のチェックを定期的に受けることでリスクを限りなく回避できます。
ピルの服用ができない方
体質や生活習慣が以下のいずれかに該当する場合は、血栓症の発症リスクが高いため、ピルを服用できないケースがあります。
- 35歳以上で1日に15本以上喫煙する
- 高血圧
- 高度な肥満(BMI35以上)
- ひどい偏頭痛がある
- 重い持病がある
- 乳がん、子宮筋腫、子宮体がんがある、またはその疑いがある
- 静脈血栓症などの血栓性疾患にかかったことがある
- 妊娠中、出産後6週間以内、授乳中
ピルを処方してもらうには
ピルはどこで処方してもらえる?
ピルは婦人科で処方してもらえます。Webで「ピル外来+お住まいのエリア」を検索すると、ピルを処方してくれる婦人科の情報を得られるはずです。
クリニックでの処方の流れは?
クリニックでは、ピルの処方の前に問診が行われます。問診では、服用のリスクを判断するため、喫煙の習慣があるかどうかや、過去に婦人科系の疾患にかかったことがあるかどうかなどを質問されます。問診に加え、必要に応じて採血を実施したり、ピルの服用方法についての説明を受けたりして、ピルを処方してもらえます。
ピルの値段や相場は? 保険は適用されるの?
ピルの費用はクリニックによりますが、初回は初診料を含めて4,000~6,000円程度、継続処方の相場は1ヵ月分で3000円前後であることが多いです。
PMSやひどい生理痛(月経困難症)の治療は保険適用
ピルは避妊や生理日のコントロールが目的であれば保険適用外となりますが、PMSや月経困難症、子宮内膜症など婦人科系の病気治療を目的として処方が認められる場合は保険が適用できることがあります。クリニックには保険証を持参し、医師に相談すると良いでしょう。
以上、なぜピルを服用すればPMSの症状を緩和できるのか、またデメリットや処方してもらう方法を説明しました。ピルは「避妊薬」のイメージが強いかもしれませんが、避妊以外にも多くのメリットがあります。その一つがPMSの症状緩和です。
PMSの症状緩和以外にも、「生理痛(月経困難症)の症状緩和」や「子宮内膜症の予防や症状緩和」、「月経不順(生理不順)の改善」などもピル服用のメリットです。詳しくはこちらの記事「ピル服用の効果は?避妊だけじゃないピルの効果を丁寧に解説」で説明しているので、良ければご覧ください。