セックスをするときに痛みを感じることを「性交痛」といい、その原因はさまざまです。性交痛は珍しいことではなく女性の約7割がセックスのときに痛みを感じています。痛みのせいでセックスが好きになれなかったり、パートナーとの関係で悩んだりする女性は少なくありません。この記事では、性交痛のさまざまな原因を紹介し、どうすれば解決できるのか解説します。
この記事の監修医師
産婦人科専門医 月花瑶子
北里大学医学部卒業。日本赤十字社医療センター、愛育病院での勤務を経て、現在は都内の不妊専門クリニックに勤務。産婦人科専門医の資格を持つ。臨床医として働きながら、生殖に関わるヘルスケアの知識を社会に広める啓蒙活動も行う。監修書籍「やさしく 正しい 妊活大事典」(プレジデント社)
痛みを感じる場所で原因が違う
腟の入り口付近が痛いときに考えられる5つの原因
・腟が十分に濡れていない
・腟の入り口が狭い
・不安やトラウマなど精神的な問題
・性器周辺や腟の炎症や感染症
・ラテックスアレルギー(コンドームの素材に対するアレルギー)
それぞれの対処法など、詳しくは後ほど解説します。
腟の奥のあたりが痛いときに考えられる原因
・子宮内膜症
・骨盤内の臓器に腫瘍がある
・性感染症による骨盤内の炎症
腟の奥のあたりが痛いときは上記のような原因が考えられるため、早めに婦人科で診てもらうことが大切です。詳しくは後ほど解説します。
腟の入り口付近が痛いときの5つの原因と対処法
(1)腟が十分に濡れていない
セックスのときの「濡れやすさ」は人それぞれで、もともと濡れにくい体質の方もいます。また、産後のホルモンバランスの変化や、閉経後は「萎縮性(いしゅくせい)膣炎」といって腟の粘膜の萎縮により水分量が減り、濡れにくくなることもあります。
そのほか、「前戯が足りない」ということも濡れない理由のひとつです。前戯が足りない場合は、お互いが気持ちよくセックスできるようにパートナーとうまくコミュニケーションを取ることが大切です。ただし、なかなか伝えづらかったりして、それだけでは解決できないこともあるでしょう。
このように「腟が十分に濡れていない」ことでお悩みの場合には、スムーズな挿入をサポートする潤滑ゼリー(ジェル)を使ってみましょう。セックスのときに何かを使うことに抵抗がある人もいるかもしれませんが、潤滑ゼリーは婦人科でも勧められる対処法です。
潤滑ゼリーは何を選べば良いの?
「潤滑ゼリー」と検索すればたくさんの商品が出てきますが、オススメは産婦人科医などの専門家からなる団体(*1)によって開発された「リューブゼリー」です。
Amazonではベストセラー、楽天でもランキング上位の人気商品として扱われており、多くの方が使用しています。水溶性の潤滑ゼリーなので腟などのデリケートな部分への負担も少なく、産婦人科医からも推奨されています。
お値段はチューブ一本あたり1000円前後ですので、気になる方はチェックしてみてください。
(2)腟の入り口が狭い
腟の入り口が狭いと、スムーズに男性器の挿入ができなかったり、痛みを感じることがあります。このようなケースは、生まれつき処女膜が固い(または分厚い)「処女膜強靭症(しょじょまくきょうじんしょう)」と考えられます。
処女膜は腟をふさいでいるわけではなく、ドーナツのように穴のあいたものです。主に初体験をきっかけに処女膜は伸び(破れ)、それ以降はスムーズにセックスができることが多いですが、まれに処女膜が固いせいでセックスが困難な方がいます。
処女膜強靭症への対処法
「処女膜切開手術」によって対処することができます。治療の効果は人によりますが、手術で痛みが軽減されることがあります。処女膜の一部に切れ目を入れる、またはリング状に切開する方法があり、手術といっても日帰りで済むことが多いです(一泊だけ入院することもあります)。また、気になる手術費用は10万円から20万円程度です。
自分で処女膜強靭症かどうかを判断することはできないため、まずは婦人科で診察を受けるようにしましょう。婦人科の選び方は「どこに行けばいいの?婦人科を選ぶときの3つのポイント」でも解説しています。あわせてご覧ください。
(3)不安やトラウマなど精神的な問題
性暴力などトラウマになる経験や、パートナーに対する怒りやセックス・妊娠への恐れ、自分に対する否定的な感情などが原因で、正常であれば軽いと感じられるはずの接触でも「強い痛み」として感じることがあります。
このような症状を「誘発性腟前庭痛(ゆうはつせいちつぜんていつう)」と呼び、特徴としては、セックス中に腟の入り口付近に鋭い痛みを感じる、セックスの後にヒリヒリする、排尿困難になるなどの症状がみられます。
誘発性腟前庭痛への対処法
対処法には、痛みに対する思考や感情、ストレスの管理をサポートする精神療法や、痛み自体に対する治療があります。自分で原因が「誘発性腟前庭痛」だと判断することは難しいので、まずは婦人科に相談しましょう。
婦人科の選び方は「どこに行けばいいの?婦人科を選ぶときの3つのポイント」でも解説しています。あわせてご覧ください。
(4)性器周辺や腟の炎症や感染症
性器周辺や腟に炎症が起こっている、または性感染症にかかっている場合も痛みを感じることがあります。性器周辺や腟が赤くはれていたり、おりものが増える・悪臭がするなどの変化があれば、炎症や感染症の可能性を疑いましょう。
性器周辺や腟など炎症や感染症への対処法
放っておくと症状が悪化する可能性があるため、早めに婦人科で検査を受けるようにしましょう。薬の服用などで治療が済めば、性交痛も無くなると考えられます。
婦人科の選び方は「どこに行けばいいの?婦人科を選ぶときの3つのポイント」でも解説しています。あわせてご覧ください。
(5)ラテックスアレルギー(コンドームの素材に対するアレルギー)
ラテックスアレルギーがある場合は、ラテックス製のコンドームが原因で痛みを感じることがあります。「ラテックス製」と言われてもピンとこないと思いますが、市販されているコンドームの多くはラテックス製です。セックスをした後に腟がはれたり、かゆみがある、または過去にゴム手袋に対してアレルギー反応が出たことがある方はラテックスアレルギーかもしれません。
ラテックスアレルギーへの対処法
コンドームを買うときにポリウレタン製のものを選ぶようにしましょう。ポリウレタン製コンドームには「オカモトゼロワン(0.01)」「オカモトゼロツー(0.02)」や「サガミオリジナル001」「サガミオリジナル002」などがあります。購入時には、コンドームのパッケージに表記されている素材をチェックするようにしましょう。
腟の奥のあたりが痛いときは婦人科へ
「腟の奥のあたりが痛い」という場合は注意が必要です。以下は、腟の奥のあたりが痛いときに考えられる原因です。
子宮内膜症
生理(月経)のある女性の約10%(10人に1人)は子宮内膜症といわれています(*1)。子宮内膜症を患っていると、骨盤内の臓器(子宮、卵巣、卵管、骨盤腹膜など)が他の組織とくっついてしまう「癒着(ゆちゃく)」が起こることがあります。このような状態だと、生理(月経)のタイミングで下腹部や腰に痛みを感じるだけでなく、セックスの際にも痛みを感じることがります。
性感染症による骨盤内の炎症
クラミジアや淋病などによって骨盤内に炎症が起こっている可能性も考えられます。クラミジアや淋病にかかると、不正出血や、おりものが増えたり、悪臭がしたりという症状もあわせて起こることがあります。
骨盤内の臓器に腫瘍がある
骨盤内の臓器(子宮、卵巣、卵管、骨盤腹膜など)に腫瘍があると、セックスの際に痛みを感じることがあります。腫瘍といってもガン(悪性腫瘍)であることはとてもまれです。ほとんどの場合は良性腫瘍なので命に関わることはありません。痛みなどの症状が我慢できる範囲のときや、腫瘍が小さい場合は経過観察とされることが多いですが、ときには手術を行うこともあります。
このように、腟の奥のあたりが痛いときは病気が隠れているかもしれません。早めに婦人科に相談するようにしましょう。
相談しやすそうな婦人科を選ぼう
性交痛の悩みはデリケートな問題でもあるので、人には少し話しづらいと感じる人もいるでしょう。ですから、婦人科を選ぶときは病院や雰囲気や対応の良さ、医師の性別などを事前に調べて、相談しやすそうな婦人科を選ぶと良いでしょう。
なお、婦人科の選び方は「どこに行けばいいの?婦人科を選ぶときの3つのポイント」でも解説しています。あわせてご覧ください。
以上、この記事では性交痛の原因と対処法を解説しました。性交痛の悩みは決して恥ずかしいことではなく、女性の約7割が悩んでいるという調査(*2)もあります。お悩みの方はこの記事を参考にしていただき、必要に応じて婦人科に相談してみてくださいね。